
福島原発廃炉プロジェクト
福島原発廃炉プロジェクト
幾多の困難を乗り越え、福島の未来に光を灯す。
2011年3月、日本列島に未曽有の被害をもたらした東日本大震災。日本のエネルギーを支えてきた福島第1原子力発電所では、運転中の1号機~3号機が停止後の炉心の冷却に失敗し、炉心を損傷する事故が発生。そして2012年4月、正式に廃炉が決定した。事故から10年以上が経過した今もなお、立ち入りが困難なエリアが存在するなか、福島第1原子力発電所廃炉に向けて、福島の真の復興を心から願うエンジニアたちの飽くなき挑戦と奮闘が続いている。

副事業部長(理事)|1992年入社
日本大学理工学部卒。入社後は、福島第1・第2原子力発電所の予防安全に関わる工事の計画業務を経験。現在は、原子力・水力発電所、変電所、交通関係の建設、予防保全などを手掛けるプラント事業部の副事業部長として、福島廃炉プロジェクトの業務全体を統括している。

福島プロジェクト部部長|1994年入社
室蘭工業大学機械システム工学科卒。日本および英国の原子力発電所の新設プロジェクトに関わり、原子力建設計画や現地施工管理などに従事。2011年の発災以降は、福島第1原子力発電所の業務を担当。廃炉措置計画や現地工事などを手掛けている。
誰も経験したことがない未知の作業に挑む。

2011年3月の東日本大震災が発生する前までは、主に福島第1・第2原子力発電所の点検業務などを行っていました。東日本大震災による福島第1原発の被災をきっかけに緊急対応を迫られるなかで、現在の福島プロジェクト部が立ち上がりました。

私が福島原発に関わり始めたのは、2019年に英国のプロジェクトが取りやめになって以降のこと。震災当初は原子炉内の冷却水が蒸発しないように水を入れ込んだり、電源を復旧するための工事のほか、冷却に使う海水を淡水にするための工事などを手掛けました。


現在は、廃炉に向けた工事を円滑に進めるため、爆発を起こした原子炉周辺のがれきの撤去作業や、炉内に残された燃料デブリの形状を明らかにする調査業務などを行っています。線量が高くて立ち入ることができないエリアがある中、遠隔操作できる重機を用いながら、調査機器が通るルートを確保するプロジェクトなどを任されています。

今後は、1号機での燃料プール内に残っている燃料棒の取り出しと原子炉底部に溶け落ちた燃料デブリの取り出し作業が実施計画されています。現在はこの作業のために環境改善などの準備工事を着実に進めているところです。
燃料デブリの取り出しは、過去に誰もやったことがない作業です。今のところ、ロボットのマジックハンドを操作し、数ミリ単位で少しずつすくいあげるという方法が予定されていますが、いまだに検討すべきことがたくさんあり、東京電力の担当者と一緒に協議を重ね、想定されるリスクを潰しながら慎重に手順を決めているところです。


現地を再現した模型を作り、入念に手順を確認。

工事の手順を決める際は、可能な限り現地調査を行って詳しい情報を取得したうえで、現地を再現した模型を作り、そこで数か月にわたり手順の確認やシミュレーションなどを行います。

模型であらかじめ手順を固め、現地で働くスタッフのトレーニングを行ったうえでがれきの撤去作業などに臨みます。ただ、それでも失敗するような困難なタスクが非常に多いです。


倉庫エリア内に原寸大の現場を再現しており、まずはそこで模擬的に作業を行います。東京電力の担当者立ち会いのもと行われた模擬作業で失敗したときには、必死で手順の見直しを図り、無事に計画工程通りの作業を完遂しました。また、実際の作業時にも困難はつきものです。ある時は、調査時から現場状況が変わっており、作業が上手くいかない事態もありました。この時には装置を全部戻して模型を作り直し、トレーニングの末になんとか作業を成功させました。東京電力の方からも「難しい作業に日立グループ一丸となって取り組んでいただき、感謝しています」との言葉をいただき、改めてこの仕事のやりがいを実感しています。
本格的に燃料デブリの取り出し作業が行われるのは、おそらく2030年代に入ってからのこと。全ての作業を終えて廃炉を完了するには2060年~2070年頃までかかる想定です。社会的に大きな注目を集めるプロジェクトであるため、何かトラブルが発生すればすぐにネガティブなニュースが拡散されてしまう。だからこそ入念に検討を繰り返し、常に緊張感を持ちながら慎重に作業を進めています。

廃炉を成し遂げた先に、真の復興が見えてくる。


福島廃炉プロジェクトは、これまでの原子力建設や点検で行ってきた工事とは全く性質の異なる仕事です。未体験の作業や未知の状況の連続であり、新たな知見を得ながら成長することができたと感じています。東日本大震災の発生以降、いまだに住み慣れた地域に戻れずにいる方がたくさんいます。真の意味の復興を成し遂げるためには、私たちがこの廃炉作業を安全・確実に完遂しなければならない。社会的意義の大きさをかみしめながら日々の業務にあたっています。

私たちと一緒に働いているメンバーの中にも、震災当初、被災地で暮らしていた方が結構います。こうした方たちが、廃炉作業を通じてきちんと働ける場を作る、雇用を守るという意味でも責任の大きなプロジェクトだと思っています。

これからの作業は、残存燃料や燃料デブリの取り出しなど、より一層困難を伴うフェーズに入っていきます。これまで以上に気を引き締め、しっかりと対応していきたいです。

この仕事の一番のだいごみは、社会に貢献している実感を強く持てること。「危険なのでは?」と不安に思う方もいるかもしれませんが、安全面については入念に放射線管理を行うなど、万全な体制が敷かれていると胸を張って言えます。

新たな技術を積極的に投入しながら、前例のない仕事を成功へと導いていく。きっと大きなやりがいを感じられる環境だと思います。私たちと一緒に廃炉作業という未知の世界に果敢に挑み、社会に貢献してくれる若い世代の仲間が増えてくれることを願っています。

